みほちゃんのおるすばん
みほちゃんの家には犬がいます。
こげ茶色で、鼻のところだけが黒い、
とってもかわいい犬です。
みほちゃんが幼稚園の頃に、
お兄ちゃんが近所のおばさんにもらってきました。
その時みんなで名前を考えて、
結局パパが「ミック」とつけました。
本当は「ミックス」、という名前だったのですが
まだ小さかったみほちゃんは上手に言えなくて、
いつの間にか「ミック」になってしまったのです。
みほちゃんの役目は、朝学校に行く前に、
お散歩に連れていってあげるのと
夕方にごはんをあげることです。
だからみほちゃんは
毎日お友だちより30分だけ早く起きて、
ほんの少し急いで帰ります。

ミックはとてもおとなしくて、
お隣のネコや、知らないおじさんが来ても
黙ってじっと見ているだけです。
それに、時々ぼーっと空を見上げていたりするので
パパもママも、あんまり頭のよくない犬なんじゃないかと思っていました。
でもいつだったか、本当に悪い人が来た時には
ちゃんと吠えて追い払ってくれたので
ママもちょっぴり見直しました。
それからミックは、雷や花火をとってもこわがります。
雷が鳴りそうな日は、朝から変な予感がするので落ち着きません。
いよいよ鳴りはじまると、もうじっとしていられなくなって
庭中を走り回ったり、それは怖そうなんです。
花火もなんだかおかしな匂いがして、
その上ものすごく大きな音がするので、
そんな時はじっと小屋に閉じこもっています。
それに暑いし。
だからミックは夏は、あんまり好きじゃありません。

そんな夏休みも終わった、ある日の夕方
みほちゃんが学校から帰ると、誰もいませんでした。
テーブルの上にはメモが置いてあって、
「ちょっとお買物に行ってきます。ミックと2人でおるすばんしていてね。」
と書いてありました。
なーんだ、とみほちゃんはランドセルをおろすと庭に出ました。
ミックが待っていたように飛びついて、ちぎれるくらいにシッポを振っています。
「ただいま、ミック。ママが帰ってくるまで遊んでようね。」
みほちゃんの周りをぐるぐるまわって喜んでいたミックは
そのうちシッポを急にぱたん、とおろして小屋のほうに行ってしまいました。
「どうしたの?ミック。いっしょにあそぼうよ!」
ミックはみほちゃんを振り返りながら、どんどん歩いていってしまいます。
「ミック、そんなとこ入れないよ、待ってよぉ・・・」
みほちゃんはとうとう犬小屋の中に入ってしまいました。
どこを見まわしてもまっ暗です。
「ね、何にも見えないよ、怖いよ、ミック、どこなの?」
するとぱっと明るくなりました。
見ると角のほうにはランプがあります。
どうしちゃったのかしら? と、みほちゃんはミックの姿を探しました。
するとどうでしょう、そこにいるのはミックではなくて
人間の男の子ではありませんか。

「あなた、だあれ?ここはどこなの?」
「ここ?犬小屋の中だよ。ぼくはミック。」
その男の子はにっこり笑って言いました。
みほちゃんはびっくりして尋ねました。
「ミックって、あなた人間じゃないの。
あたしの知ってるミックは犬なの。
このくらいで、茶色くって・・・。」
「あはは、ぼくがそのミックだよ。
外に出ると犬だけど、ここでは人間なんだ。」
「どうして?」
「どうしてって、犬はみんなそうさ。
きみたちが知らないだけだよ。」
へえ、とみほちゃんは思いました。
そういえば、夜になるとお人形が動き出すお話や
ネコが踊ったりする劇や、そういうのを見たことあったっけ。
でも犬小屋に入ると人間になっちゃう犬なんて、いるのかしら。
「あなた、いくつ?」
「4つ半だよ。でも人間にすると、そうだなぁ、9才ぐらいかな。」
「じゃあ、あたしといっしょだわ。学校は行ってないの?」
「行ってないさ。そんなとこ行かなくてもいいんだ。
1人でなんでもできるんだから。」
「でも、そうしたら国語だとか算数だとか、わかんないのね。」
「そんなこと、ぼくたちちっともいらないもの。
それよりどんな草は食べても平気とか、
この虫にはさわっちゃいけないとか、覚えることたくさんあるんだ。」
「ふーん、いいわね。勉強しなくてもいいなんて。」
「まあね、でもまちがえたら命があぶないんだもの、大変だよ。」
それもそうね、とみほちゃんはまだあんまり信じられない、という顔で聞いていました。
「ね、それじゃ昼間はずっとここにいるの?」
「うん。ここで本読んだり・・・・・・。」
「本!? 字も読めるの?学校行ってないのに?」
「だって小さいころ、きみんちのパパがよく新聞くれたろ?」
「あ、まだ家の中にいたころね。
あなたよく新聞紙にくるまって寝てたものね。」
「それで覚えたんだ。庭に置いてある本をちょっともらってきてさ。」
「やっぱりあなただったのね。
ママ、困ってたわよ、捨てようとしてきっちりしばっといても
すぐにミックがバラバラにしちゃうって言って。」
「へへ、だって犬の格好じゃ指なんかうごかないしさ、
きれいに片付けるなんてできないよ。」

ミックはちょっと日に焼けた顔で、いたずらっ子みたいに笑いました。
みほちゃんは小屋の中をぐるっと見まわして、
あちこちにある葉っぱの山に気がつきました。
「あれ、なあに?」
「風が入ってこないようにさ。冬になるとけっこう寒いんだ。
毛布なんかあるといいんだけど。」
「だって、あなた毛布みんな引っぱり出しちゃうじゃないの。」
「あれはさ、大きすぎるんだもの。動けなくなっちゃうよ。」
「そうね、あれはパパの毛布だったもんね。」
その時、外から何か聞こえてきました。
「あ、ママだ。あたしもう行かなきゃ。」
「そうなの。」
ミックはなんだか淋しそうです。
「また来てよね。」
「うん。でもママやパパがいる時はだめなの。」
「ぼくのこと、だれにも言ったらだめだよ。」
「わかった、2人だけのひみつね、約束する。
今度またいっしょにおるすばんしようね。」
「うん、じゃあね、バイバイ。」
みほちゃんもちょっぴり淋しかったけど、明るい出口のほうに歩いていきました。
「何してたのみほちゃん、まぁこんなに汚れて!
そうそう、ミックにごはんあげてね。」
みほちゃんがごはんとお水を持っていくと
ミックはいつもよりちょっとだけうれしそうに
シッポをぱたぱた振りました。
みほちゃんもちょっとだけ、今日のミックがおりこうに見えて
そうだ、冬になったらあたしの毛布入れてあげよう、と思いながら
そっと頭をなでてあげました。
=====================================
うちにいた、本物の「ミック」をモデルにした
きなこさん大学時代の作品が発掘されました。
なんでこれが「フランス文化」の課題だったのか、まったく謎。
坪田穣治文学賞ねらいです。

クリックするか、出版社に売るか。
みほちゃんの家には犬がいます。
こげ茶色で、鼻のところだけが黒い、
とってもかわいい犬です。
みほちゃんが幼稚園の頃に、
お兄ちゃんが近所のおばさんにもらってきました。
その時みんなで名前を考えて、
結局パパが「ミック」とつけました。
本当は「ミックス」、という名前だったのですが
まだ小さかったみほちゃんは上手に言えなくて、
いつの間にか「ミック」になってしまったのです。
みほちゃんの役目は、朝学校に行く前に、
お散歩に連れていってあげるのと
夕方にごはんをあげることです。
だからみほちゃんは
毎日お友だちより30分だけ早く起きて、
ほんの少し急いで帰ります。

ミックはとてもおとなしくて、
お隣のネコや、知らないおじさんが来ても
黙ってじっと見ているだけです。
それに、時々ぼーっと空を見上げていたりするので
パパもママも、あんまり頭のよくない犬なんじゃないかと思っていました。
でもいつだったか、本当に悪い人が来た時には
ちゃんと吠えて追い払ってくれたので
ママもちょっぴり見直しました。
それからミックは、雷や花火をとってもこわがります。
雷が鳴りそうな日は、朝から変な予感がするので落ち着きません。
いよいよ鳴りはじまると、もうじっとしていられなくなって
庭中を走り回ったり、それは怖そうなんです。
花火もなんだかおかしな匂いがして、
その上ものすごく大きな音がするので、
そんな時はじっと小屋に閉じこもっています。
それに暑いし。
だからミックは夏は、あんまり好きじゃありません。

そんな夏休みも終わった、ある日の夕方
みほちゃんが学校から帰ると、誰もいませんでした。
テーブルの上にはメモが置いてあって、
「ちょっとお買物に行ってきます。ミックと2人でおるすばんしていてね。」
と書いてありました。
なーんだ、とみほちゃんはランドセルをおろすと庭に出ました。
ミックが待っていたように飛びついて、ちぎれるくらいにシッポを振っています。
「ただいま、ミック。ママが帰ってくるまで遊んでようね。」
みほちゃんの周りをぐるぐるまわって喜んでいたミックは
そのうちシッポを急にぱたん、とおろして小屋のほうに行ってしまいました。
「どうしたの?ミック。いっしょにあそぼうよ!」
ミックはみほちゃんを振り返りながら、どんどん歩いていってしまいます。
「ミック、そんなとこ入れないよ、待ってよぉ・・・」
みほちゃんはとうとう犬小屋の中に入ってしまいました。
どこを見まわしてもまっ暗です。
「ね、何にも見えないよ、怖いよ、ミック、どこなの?」
するとぱっと明るくなりました。
見ると角のほうにはランプがあります。
どうしちゃったのかしら? と、みほちゃんはミックの姿を探しました。
するとどうでしょう、そこにいるのはミックではなくて
人間の男の子ではありませんか。

「あなた、だあれ?ここはどこなの?」
「ここ?犬小屋の中だよ。ぼくはミック。」
その男の子はにっこり笑って言いました。
みほちゃんはびっくりして尋ねました。
「ミックって、あなた人間じゃないの。
あたしの知ってるミックは犬なの。
このくらいで、茶色くって・・・。」
「あはは、ぼくがそのミックだよ。
外に出ると犬だけど、ここでは人間なんだ。」
「どうして?」
「どうしてって、犬はみんなそうさ。
きみたちが知らないだけだよ。」
へえ、とみほちゃんは思いました。
そういえば、夜になるとお人形が動き出すお話や
ネコが踊ったりする劇や、そういうのを見たことあったっけ。
でも犬小屋に入ると人間になっちゃう犬なんて、いるのかしら。
「あなた、いくつ?」
「4つ半だよ。でも人間にすると、そうだなぁ、9才ぐらいかな。」
「じゃあ、あたしといっしょだわ。学校は行ってないの?」
「行ってないさ。そんなとこ行かなくてもいいんだ。
1人でなんでもできるんだから。」
「でも、そうしたら国語だとか算数だとか、わかんないのね。」
「そんなこと、ぼくたちちっともいらないもの。
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「本!? 字も読めるの?学校行ってないのに?」
「だって小さいころ、きみんちのパパがよく新聞くれたろ?」
「あ、まだ家の中にいたころね。
あなたよく新聞紙にくるまって寝てたものね。」
「それで覚えたんだ。庭に置いてある本をちょっともらってきてさ。」
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あちこちにある葉っぱの山に気がつきました。
「あれ、なあに?」
「風が入ってこないようにさ。冬になるとけっこう寒いんだ。
毛布なんかあるといいんだけど。」
「だって、あなた毛布みんな引っぱり出しちゃうじゃないの。」
「あれはさ、大きすぎるんだもの。動けなくなっちゃうよ。」
「そうね、あれはパパの毛布だったもんね。」
その時、外から何か聞こえてきました。
「あ、ママだ。あたしもう行かなきゃ。」
「そうなの。」
ミックはなんだか淋しそうです。
「また来てよね。」
「うん。でもママやパパがいる時はだめなの。」
「ぼくのこと、だれにも言ったらだめだよ。」
「わかった、2人だけのひみつね、約束する。
今度またいっしょにおるすばんしようね。」
「うん、じゃあね、バイバイ。」
みほちゃんもちょっぴり淋しかったけど、明るい出口のほうに歩いていきました。
「何してたのみほちゃん、まぁこんなに汚れて!
そうそう、ミックにごはんあげてね。」
みほちゃんがごはんとお水を持っていくと
ミックはいつもよりちょっとだけうれしそうに
シッポをぱたぱた振りました。
みほちゃんもちょっとだけ、今日のミックがおりこうに見えて
そうだ、冬になったらあたしの毛布入れてあげよう、と思いながら
そっと頭をなでてあげました。
=====================================
うちにいた、本物の「ミック」をモデルにした
きなこさん大学時代の作品が発掘されました。
なんでこれが「フランス文化」の課題だったのか、まったく謎。
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